創傷外科
多種多彩な創傷に対応する外科的治療
東京女子医科大学病院は、他の外科系各科も充実しており全国屈指の手術件数を誇っています。また重篤な基礎疾患を有する手術症例も大学病院の使命として対応しており、一定の頻度で手術後の創哆開、創部感染を来す症例が発生します。
形成外科は「創傷外科」として院内で発生する術後創に関するトラブルに対応しています。従って、開頭手術後の頭皮創哆開、開胸術後の縦隔炎、消化器外科・婦人科・泌尿器科などの腹部手術後の創離開、整形外科での創部感染など、多種多彩な手術創の修復に関わっています。
他診療科との主な合同手術の術式
●乳腺外科
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乳がん切除後乳房再建
遊離深下腹壁動脈穿通(DIEP)皮弁、遊離大腿深動脈穿通枝(PAP)皮弁
●整形外科
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下肢開放性骨折(骨髓炎)
遊離広背筋皮、遊離前外側大腿皮弁
●歯科口腔外科
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舌がん切除後舌再建、歯肉がん切除後歯槽・口腔底再建
遊離前外側大腿皮弁、遊離前腕皮弁 -
下顎骨再建
遊離腓骨皮弁、遊離腸骨弁
●脳神経外科
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頭蓋骨骨髓炎
遊離広背筋皮弁→人工骨移植 -
頭皮潰瘍
頭皮回転皮弁
●消化器外科
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胃管壊死
遊離空腸移植
●呼吸器外科
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膿胸
有茎胸部筋膜皮弁 -
胸骨骨髓炎
大胸筋弁
●心臟血管外科
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胸骨骨髓炎
有茎腹直筋皮弁、大胸筋皮弁
●泌尿器科
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フルニエ壊疽、膿腎症
デブリードマン、植皮術
●新生児科
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脊髄髄膜瘤(with 脳神経外科)
有茎筋膜回転皮弁、有茎広背筋皮弁
症例:四肢開放性骨折に対する皮膚軟部組織再建手術
四肢開放性骨折は交通外傷等を起因として発生し、ひとたび創部感染、偽関節等を合併すると創傷治癒遷延により患者さんの自立歩行、社会復帰を大幅に遅延させます。通常の骨折と比較して、骨折部と外界が直接交通しているため創部感染の危険が高く、その治療には特別な配慮が必要となります。Gustilo type Ⅰ~ⅢAまでの開放性骨折では、早期の徹底したデブリードマンと内固定により創治癒が得られる症例も多いのですが、ⅢB以上の広範囲な組織欠損を伴う症例には、まず最初にデブリードマン及び創外固定を行い、創部の清浄化の後に二期的に皮弁による再建を行うことが一般的です。重度の開放性骨折例の救肢ができるか否かは軟部組織欠損の程度により左右されることが報告されており、広範囲な皮膚軟部組織欠損を有する症例に対しては、患肢救済のために遊離皮弁移植術、植皮術などを組み合わせた複数回手術による綿密な治療戦略が必要となります。
一方で陰圧吸引療法(NPWT)は強力な創収縮効果と肉芽形成促進効果を有し、外傷、褥瘡及び下肢潰瘍などの幅広い創傷に使用されている医療用デバイスです。しかしながら、感染創に対してはその細菌量を増加するとの報告もあり、NPWTは汚染創や壊死組織が残存する潰瘍面などへの適応は限定的であす。この問題を解決するべく新たに洗浄型陰圧吸引療法 (NPWTi-d)が開発され広く臨床使用されています。NPWTi-dは従来のNPWTに間欠的洗浄を併用したものであり、一定時間に1回スポンジを洗浄液で浸漬し、その後陰圧をかけるというサイクルを繰り返す治療法です。NPWTi-dの主な効果は、①周期的に洗浄液を創部に注入・浸漬することで創面の環境調整および創の清浄化を行う点、②陰圧を付加することによる創収縮、肉芽形成の促進と滲出液、感染性老廃物の除去する点、の2つです。
当科では重症下肢開放骨折症例に対してNPWTi-dによるwound preparation(創面環境調整)と遊離皮弁移植を併用することにより、可能な限り合併症を回避し、短期間で社会復帰できる再建治療を推進しております。
左下腿開放性骨折 3DCT画像
洗浄型陰圧吸引療法(NPWTi-d)にて
皮膚欠損創の清浄化と肉芽増生を図った
骨折部の内固定+遊離広背筋皮弁移植後の所見
皮弁の血管は下腿の後脛骨動静脈と顕微鏡下に吻合した
筋皮弁移植術後 6ヶ月の所見
広範囲に皮膚皮下組織を失った左下腿の開放性骨折を整形外科と共同して骨折治療後に背中からの皮弁移植および大腿からの植皮術にて治すことができ、歩行に問題なく、社会復帰できている。
Hajime Matsumine, Giorgio Giatsidis, Hiroshi Fujimaki, Nobuyuki Yoshimoto, Yuma Makino, Satoshi Hosoi, Mika Takagi, Mari Shimizu, Masaki Takeuchi. NPWTi allows safe delayed free flap repair of Gustilo IIIb injuries: A prospective case series. Regenerative Therapy 2021; 18:82-87.